香港ポストコラム 『Trust (信託)』
- 2015年09月14日
- カテゴリ:コラム
Trust (信託)
信託の由来
信託の起源は17世紀にさかのぼることができる。当時、イギリスとフランスとで戦争が頻繁にあったため、多くの男性が軍役を命じられ、遠くまで戦いに駆り出された。当時は飛行機や自動車などはもちろんなく、短くても半年、長ければ数年間家を離れることになり、最悪な場合、戦争で亡くなる人も少なくなかった。
一時家を離れるため、自分の資産や家族を誰かに任せことは最も大事な問題であった。例えば、不動産を所有している場合、誰に貸すか。その場合の家賃の徴収、そしてもらった家賃を家族の生活費に回すことなどを考える必要があった。当時はやっていた解決方法は、自分の資産を信用できる友人や親戚に一時的に預かってもらったり、不動産物件の場合は、さらに名義変更まで行っていたりもした。
しかしながら現実は、最初はどんなに信用できた友人や性格がよかった人であっても時間の流れに負けた。最初は手伝ってあげるつもりで預かっただけだったが、時間が経てば経つほど、預かった資産を自分のものだと勘違いし奪われ始めた。戦争が終わるにつれ多くの軍人がイギリスに帰国したが、信用した人が預けていた資産を返してくれなかったことが頻繁に発生した。しかも当時、イギリスの法廷で争うにしても、資産の名義人は、「信用した人」に移っていたから、当時の法律(Law)上は問題がなくどうしようもない状態だった。しかしながら法律に従った結果は非常に不公平であり、深刻な社会的な問題となった。兵役に尽くした軍人達は国のために却って自分の資産を失くすこととなった。
徐々に法廷の態度も変わっていた。簡単に言えば、厳格的に法律に従うことより発生した不公平、不道徳なこと、あるいは法律だけで解決できないことを、裁判所は公平公正原則(Equity)で取り扱うこととなった。その時から「法律」というものは法律と公平公正(Law and Equit)という二流派となっている。その中でも信託(Trust)は、公平公正原則 の最も重要な産物である。公平公正原則の概念により、所有権は従来の法的な所有権(Legal Ownership)のみから法的な所有権を名義上の所有権(Legal Ownership) と実際所有権(Beneficial Ownership)に分けるようになった。公平公正原則の誕生により、名義上の所有者が持っていた資産により発生した権利・利益はすべて実際所有者にすべて帰属することになった。必要がある場合、名義上の所有者は名義所有権を実際所有者に返す(transfer back)義務もある。この概念も現代信託の大きな基盤となっている。
現代の信託(Modern Trust)
さて、読者が興味を持っている現代の信託について説明したいと思う。有効な信託には、以下の3つの登場人物が欠かせない。
①信託の授与者/設定者(settlor)
②信託の受託人/被信託人/保管人(trustee)
③信託の受益者(beneficiary)
以上のいずれかが欠けると、信託は成立しない。尚、三者の中で重複した身分であることは可能である。例えば、授与者は同時に被信託人・保管人にもなれる。あるいは、被信託人は同時に受益者にもなれる(注1)。または信託の授与者は資産を第三者である被信託人に移管させ、自分が受益者となる設定も可能である(注2)。
※注1:受益者が同時に数人いる場合の時である。もし設定者と受益者が同じ人で、しかも受益者が一人しかいない場合は、その「信託」は偽信託(sham trust)と見なされる可能性が高い。
※注2:被信託人と受益者が同じ人でしかも受益者の数は一人しかいない場合、そういう信託は自分のために管理する信託というおかしな信託となってしまう。論理的には偽信託と判断させる可能性も高い。
(このシリーズは月1回掲載します)
ANDY CHENG
弁護士 アンディチェン法律事務所代表
米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めていた。日本語堪能
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