中小企業のための法務講座『香港における減給、無給休暇やリストラ』
- 2020年05月06日
- カテゴリ:コラム
香港における減給、無給休暇やリストラ
初めに
3月9日に安倍首相は新型コロナウイルスの感染拡大が公文書管理ガイドラインで定める「歴史的緊急事態」に当たると表明し、その2日後の11日には世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長が新型コロナウイルスについて「パンデミック(世界的流行)とみなせる」と表明しました。新型コロナウィルスの蔓延により 実質的に移動がかなり制限され鎖国の様な状態になっています。日系企業のマネージメント層の出張でアジア中を飛び回っていた方は、かなり業務に支障が出ているのではないでしょうか。皆が外出を控えるために、特に、飲食、小売、航空業界は特に大きな打撃を受けているため、香港政府から対象業界に補助金が支給されるようです。
私自身は、昨年夏から、中国委託公証人として中国公証業務にも携わっています。これは香港の企業情報やパスポートなどの書類を中国の政府関連機関に提出が必要な人のために公証人として公証し、書類の真偽を証明する業務です。こうした業務の性質のためか、旧正月以降、中国公証案件は問い合わせすら全くない状況です。中国公証協会によると、香港における2月度の中国公証案件はゼロだったとのことですので、どうりで電話すら鳴らない訳です。
同じビルにある日系企業のオフィスの入り口には、マスク着用をしていない場合は入室禁止などの貼り紙を見かけたりもします。先日、横領にあった日系企業と共に警察署へ行きましたが、体温をチェックされてからようやく入室が許されました。他の政府役所でも今まで仕切りがなかった箇所には、ビニールシートの様な壁が施されるなどの様々な対策が施されています。
日系の飲食チェーンのある従業員が食事時に置いてある箸の上にマスクを置いて食べているのが新聞に掲載されたために、このチェーン店は香港中の支店で密封された使い捨ての箸に変え、客が出た後はアルコールでテーブルを拭くように変更し、全店消毒を施したとのことです。二度と同じ様な事件を再発させないと市民に謝罪しました。
2003年のSARSで香港は、数百人の死者を出した経験から学び、17年後の今、コロナウィルスに特に慎重な態度と心構えで毎日動いています。そのため日系企業、中でもBtoC向けのビジネスでも特に慎重な対応が求められています。
昨年6月から続いたデモで大きな打撃を受けた中、更に、この新型コロナウィルスにより、方向転換をお考えの日系企業も多いと思います。オフィスの縮小・閉鎖・撤退や関連会社との合併(香港ポスト『香港における合併』2015年10月16日、11月20日号参照)に伴う労務の中でも、減給、無休休暇とリストラに関して、今回は解説します。
減給、無給休暇とリストラについて1つずつ検討しましょう。もちろん減給、無給休暇とリストラなどという措置を取る前に、従業員への被害を最小限とするようなまろやかな手段をまずは検討するべきでしょう。例えば、従業員と気軽に話せるような雰囲気の中で売上増加やコスト削減のアイディアを話し合えるようにしたり、有益なアイディアを出す従業員へのお金や休暇などでインセンティブを与えるなどです。会社が暇となっている今の内に、余っている有給休暇を取得させることも考えられます。もちろん今の旅行も出来ず家にいることしか出来ない状況では嫌がられる可能性が高いでしょうが、会社の厳しい現状を率直に話し、減給、無休休暇やリストラなどを避けるための措置であることを理解してもらうなどが考えられます。
減給
減給が不可避となった時の注意点としては、スタッフに親切で紳士的な態度で会話をすることが重要です。これは従業員の信用と指示をもらうためには欠かせません。一方的に強引な態度で進めると紛争になることは不可欠です。下手をすると労務訴訟や苦情にまでなってしまう可能性がほぼ100%でしょう。減給はあくまで会社の経営状況が困難であるためであり、社員の貢献を十分認めているという印象を残す事が非常に重要なポイントです。
ANDY CHENG 鄭國有
弁護士 アンディチェン法律事務所代表
米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めていた。日本語堪能
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