中小企業のための法務講座『不可抗力 Force Majeure』
- 2020年10月15日
- カテゴリ:コラム
不可抗力 Force Majeure
契約書には様々な種類があります。1−3ページの短いもの、10数ページの中くらいのもの、数十ページもの長いものがあります。香港では中くらいの契約書が多いのは皆さまもお気づきのことと思いますが、中くらいからの長い契約書の中でよくある契約条項の一つに不可抗力Force Majeure条項があります。この条項は一般的な状況の場合はよく無視され見逃されている存在です。ただし、この1年間の香港のデモによる破壊、放火、交通停止、閉店、道路閉鎖→COVID-19 伝染病の蔓延により公務員の自宅勤務、香港への入境者に対しての14日間の強制検疫、3人以上の集会禁止→香港国家安全法より国際的な制裁と今まで経験したことも行ったこともない状況ばかりです 。こうした背景の中、香港の香港弁護士の目から見ると契約の影響に対して忘れられていた不可抗力条項が宝石の輝きの様に眩しい存在になってきています。
不可抗力(Force Majeure)とは?
簡単に言えば、契約の条項としてある契約同士のコントロール以上の事件や事由が発生した時に、片方あるいは両方が該当契約の義務や責任をその理由で履行できなくなる時に、契約不履行者が契約違反として見なされないということです。つまり責任を取らされない。ただし、これは責任免除というより責任を一時的に停止する、或いは、凍結されたと理解した方が良いでしょう。つまり不可抗力の事件や事由がなくなった途端に、契約不履行者は素早く該当の凍結された契約義務を履行するべきです。
契約の不可抗力Force Majeure(FM省略される)条項の例は以下が一般的です。
1) 地震、洪水、火災、嵐などの天災、自然災害、
2) 戦争、侵略、封鎖などの武力行為、
3) ストライキ、
4) 革命、反乱、騒乱、暴動
5) 伝染病
6) 接収、挑発、禁止、規制などの政府行為
7) その他
ここ1年間の香港は、以上の理由により不可抗力として十分に契約不履行の種とも言え、契約者同士の揉め事になりやすいでしょう。契約時と異なった今の状況で契約を履行したくない契約不履行者対、契約不履行の影響を受ける者との戦いとなります。
香港法律には不可抗力の一般的な概念を含んでおらず、契約で明示的に合意されてこそ効力があります。その適用は契約書の特定の文言に依存します。通常は、主張する状況が該当の不可抗力の事由に起因していたかどうか。更に、該当事件が、当時本当にコントロールが不可能であったかどうか。該当事由を避ける或いは、軽くするためにできる限りの合理的な措置を取ったかどうか。また相手へ契約上の定めに従い通知手続きも必要です。
COVID-19は、不可抗力条項に当たるか。
まず不可抗力条項の中で、疾病、流行病、検疫などの項目を検討する必要があります。不可抗力条項の定義や書き方により異なります。新型コロナは、WHOによるとパンデミックpandemicに当たるとしていますが、契約書に「epidemic」(パンデミックほど広範ではない伝染病)のみが記載されていた場合は、問題となる可能性が高いでしょう。またCOVID-19は、政府機関の行為や命令、天災地変(Act of God)の条項にも適応する可能性があります。
今後は、 一般的な不可抗力に含まれると主張することは難しいかもしれませんので新しく契約書を作成する場合は、COVID-19のリスクに関する規定を設けるべきか検討すべきでしょう。コモンローの香港では不可抗力が認められるためには、不可抗力条項が存在し、その適用は、契約書の中での文言に依存しますので、契約書の文言がより重要となります。会社として今後の揉め事を防ぐために、契約条項の不可抗力の定義や契約書全体の精査を考えるべき時にきていますのでぜひ弁護士にご相談ください。
なお、このコラムは文字数も限られておりあくまで一般的な情報提供であり実際の事案や契約状況は様々であり、個別に検討する必要があります。
ANDY CHENG 鄭國有
弁護士 中国委託公証人 アンディチェン法律事務所代表
米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めていた。日本語堪能
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タグ:COVID-19, Force Majeure, デモ, 不可抗力, 契約書, 弁護士, 新型コロナ, 日本, 香港