もしもあなたが逮捕されたら…『香港ポスト』
- 2020年11月10日
- カテゴリ:コラム
もしもあなたが逮捕されたら…
⑴はじめに
もしも香港で逮捕されたら、あなたは適切に自分の身を守ることができますか。私たちは普段、逮捕されるかもしれないなどと考えもせず生活しているでしょう。
しかし実際には、邦人が香港で逮捕されたケースを見聞きします。私が請け負った仕事の経験をもとに、邦人が香港で逮捕されたときの対処法を紹介させていただきます。
⑵香港における逮捕事情
警察が逮捕に踏み切るときは、容疑者に対して「合理的」な疑いを持っているときです。「合理的」であるということが重要です。なぜなら、警察は法に基づき逮捕するからです。
そして、警察の捜査によってあなたが容疑者となり警察が逮捕に踏み切る場合、もっとも多い時間帯は午前零時ごろです。ちなみに廉政公署(ICAC)による賄賂にかかわる逮捕は午前5時が最も多くなっています。それは容疑者が家にいる可能性が一番高く、また容疑者の抵抗力が一番弱い時間帯だからです。
逮捕されたあなたを警察は48時間ものあいだ拘留することができます。さらにこの拘留時間は特別な法律によって延長することができます。
⑶逮捕されたときの対処
①冷静さを守ること
これが最も大切です。警察は合理的な疑いをもって逮捕に踏み切ります。そこであなたが大きく抵抗したり暴力をふるったりすれば、警察に容疑者を逮捕する口実をさらに与えてしまうことになります。
②自分がどのような罪で逮捕されたのかを警察に聞くこと
まずは状況を把握しましょう。
③不用意に話さないこと
容疑者には黙秘権があります。つまり話す義務はありません。警察官も容疑者に対して必ず次のようなことを話します。「あなたが話したいことを除き、話す義務はありません。ただし、あなたが話した内容は将来裁判所に証拠として提出されます」
④弁護士を呼びましょう
弁護士を呼ぶことは容疑者に認められた権利です。③で述べたように自分に不利な供述をしないよう、弁護士と相談して作戦を練ってから供述すべきです。
⑷黙秘権の重要性
弁護士が来る前に容疑者が勝手に警察に供述することは非常に不利なことです。近時の裁判所は極度の緊張や勘違い、警察の脅しによって事実と異なることを話してしまったという言い訳を認めません。そのため取り調べで供述してしまったことを裁判で覆すことは非常に難しいことになるからです。
多くの方は、①逮捕の事実や警察の勢いに脅かされたこと②準備不足であったこと③緊張と不安④早く警察署を出たいという気持ち⑤法律の不知(黙秘権など)——などの理由から自ら不利な供述をしてしまいます。しかしこれは絶対にしてはいけません。
もちろん、警察と「いい関係・雰囲気」を保つためにも、自分の名前や住所、身長、体重など事件に直接関係のない基本的なことは話すべきです。黙秘権の行使は事件そのものについての質問に限定し、警察官には「私は弁護士が来るまでお話しできません」と丁寧に伝えてください。
⑸弁護士との面会、そして口述
弁護士が警察署に来れば、弁護士と容疑者だけで個室で話すことができます。誰にも聞かれないようになっていますから、自分の主張を正直に弁護士に伝えるべきです。
審問(口述)のときには正式な通訳者がつくため、言葉の問題はほとんどなくなります。
⑹その後の流れ
凶悪な事件(殺人など)でなく、証人を脅したり逃亡したりする恐れがないときには、ソリスターの保釈要求により容疑者は保釈を許されます。保釈金の金額や保釈の条件は容疑者によって異なります。また保釈中であっても、容疑によっては、海外へ渡航も認められることもあります。保釈の間に警察は引き続き調査を行い、証拠の量と質により、起訴するかどうか決定します。もし警察が起訴する決定をした場合、その後、裁判となります。罪を認めるかによりその後の行動が異なります。通常、ソリスターが探すバリスターと共に、裁判のための対策を考えることになります。
(このシリーズは月1回掲載します)
筆者紹介
ANDY CHENG
弁護士 アンディチェン法律事務所代表
米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めている。日本語堪能
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