中小企業のための法務講座『香港の民事訴訟④』
- 2018年10月09日
- カテゴリ:コラム
香港の民事訴訟④
起訴状の発行
民事訴訟手続規則により、裁判を開始する様式は4つある。
①召喚状(Writ of Summons)
この様式は事実関係と法律の争いがあるときに使用する。
②手続開始申立書(Originating Summons)
この様式は法律の争いがあるときのみに使用する。
③動議(motion)
特別な申請である上訴、司法審査のときに使用する。
④嘆願書(petition)
離婚、清算、個人破産など法律で規定された争いのときに使用する。
民事訴訟では、召喚状で起訴することが圧倒的に多く、その理由は民間人の争いはほとんど事実関係の係争であるからだろう。例えば、契約違反の争いで、いつ、どこ、何、誰、損害額などはほとんど事実関係の範囲であり、民事訴訟手続規則により、間違った様式で始まった裁判の有効性は認められるが、恐らく裁判所に様式変更を命じられる。この時、担当弁護士が恥をかくだけではなく、関連する費用も自己負担を命じられる可能性が高い。
起訴状の送達
民事訴訟手続は、召喚状の提出およびこれを被告に送達することにより開始する。送達方法や有効性については詳細な規則が設けられており、このステップは極めて重要で、おろそかに出来ない。なぜならば、仮に欠席判決(default judgment)により勝訴した場合、相手方から送達が規則に違反していたことを指摘されると、送達の瑕疵という理由だけでその判決が覆される可能性が十分にあるからだ。
⑴管轄区内(香港国内)の送達 (Service within jurisdiction)
個人への送達手段として以下の方法が認められる。
①手渡し
相手方が書類受取を拒否した場合であっても、その送達は有効であると認められる。要件は、書類の性質を相手方に説明したことと相手の近くに書類を置くことである。
②書留郵送
これは最も頻繁に使用される手段である。原告は被告が常に居住している住所あるいは、最後に分かっている住所(last known address)へ書留郵送する。原告が、被告がその住所にいないことを知っていた場合(例えば、手紙が返送されていた場合)は、その送達は無効である。
③郵便受けに投函
もし常に居住している住所や最後に分かっている住所に郵便受けがあれば、その郵便受けに投函するのは有効な送達として認められる。しかし、先ほどと同様で、もし原告は、被告がその住所にいないことを知っている場合、その送達は無効である。
②と③については、被告が書類送達の時点で香港にいることが有効な送達の要件となる。
法人への送達手段として以下の方法が認められる。
①書留で法人の登記住所に郵送
②登記住所の郵便受けに投函
③会社の代表取締役、社長、取締役、カンパニーセクレタリーや他の従業員に書類の説明をして近くに置く
⑵管轄区外(香港国外)の送達 (Service outside jurisdiction)
香港管轄区外の人を訴える場合は、原告は事前に裁判所の許可を取る必要があり、これは「11番命令(order eleven)」と言われ、管轄区外の送達手続に関する規律である。原則として、原告は以下に該当することを裁判所に証明する必要がある。
①該当案件が11番命令に規定された事項に該当し、かつ、議論する余地がある。(a good arguable case)
②裁判所に判断させる重要な事実上、法律上の問題点がある。
③該当係争にとって香港は適切な裁判地である。
(このシリーズは月1回掲載します)
筆者紹介
ANDY CHENG
弁護士 アンディチェン法律事務所代表
米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めている。日本語堪能
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