香港の信託

香港の信託

⑴はじめに 

  昨年、信託についてのコラムを書いたところ多くの方からお問い合わせをいただきました。そのため信託について再度取り上げることにしました。

⑵信託とは

 信託の起源は、英国の普通法の分流である公平ルール(rules of equity)から生み出された概念です。そのため英国の法制度の影響を受けた国には信託の概念が強く根付いています。 

 信託とは、委託者が受託者に特定の財産(信託財産)を譲渡し、信託財産を管理、運用して生じた利益を受益者に提供する仕組みをいいます。 信託のためには、委託者は特定の財産を指定しその所有権とタイトルを受託者に譲渡します。また、その財産を受託者は委託者の指示に従って受益者のために管理、運用します。通常、「信託証書(Trust Deed)」という書類を作成します。

⑶所有権の二重性

 信託の大きな特徴として所有権の二重性が挙げられます。所有権の二重性とは、法的な所有権(Legal ownership)と受益所有権(Beneficial ownership)が併存する状況のことを指します。例えば、Aが出資して購入した物件の名義をBとした場合、Aが受益所有権を有し、Bは法的所有権を有する。信託の場合には、受益者が受益所有権を有し、受託者は法的所有権を有する。 

 そのため信託は、所有権の二重性の特徴により、税務、相続対策、将来的あるいは潜在的な債権者回避に非常に有用な仕組みとなっているのです。

⑷香港の信託に関する法律

 香港の信託の原則理念は公平ルールに基づいていますが、法典でも定められており、特に重要な法典は「受信人条例」です。 

 法典による永続性と過剰な蓄積の規制に反しない限りは信託の内容は委託者と受託者によって自由に定めることができます。当事者間で特に定めなかった点については受信人条例が適用されることとなります。 

 ちなみに、この受信人条例は1934年に定められた法律で、最近の金融環境に対応していないとして香港特区政府は改革の準備を進めています。

⑸信託の種類

信託にはさまざまなものがありますが、中でも特にメジャーな2つを紹介します。

①一任信託(Discretionary Trust) 

 一任信託とは信託財産の管理と運用について受託者に完全な裁量権を与えるものです。一任信託により受託者は誰にどの資産をいつ配るのか、またどのような頻度で配るのかについて裁量権を持つことになります。一般に一任信託をする際には委託者は必ず受託者に希望状(Letter of wishes)を渡します。希望状に拘束力はありません。 

 一任信託は信託のなかでも最も人気がありますが、理由としては、税金、相続対策に有利であること、および柔軟性があることの2つが挙げられます。税金対策などに有利というのは、誰が受益者になるかや、いつ、どの資産を受益者に共するかをはっきりさせないままにすることができるからです。受益者が信託財産に対して特定の具体的な権利がはっきりしないために、税務署は受益者に対して何も請求できないのです。さらに一任信託の仕組みは受託者に裁量権が一任されていることにより、あとから受益者の状況にあわせて対応することができることから柔軟性に富んだ仕組みだといえます。
②固定型信託(Fixed Trust) 
 固定型信託はどの信託財産を、いつ、誰に、どの程度の割合で共するかを信託証書によってはっきり確定します。内容が確定していることで受益者はある程度の安心感を得ることができるでしょう。しかし税金対策や将来的な債権者回避という面ではあまり有用な仕組みではないでしょう。 

 このコラムは、あくまで情報提供であり、実際の運用に際しては、必ず専門家にご相談ください。

(このシリーズは月1回掲載します)


筆者紹介

ANDY CHENG
弁護士 アンディチェン法律事務所代表
米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めている。日本語堪能
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