競争条例に関して 『香港ポスト』
- 2020年11月10日
- カテゴリ:コラム
アンディチェン法律事務所を取り上げた香港メディア
⑴はじめに
皆さんは「日本のスーパーと比較して、香港のスーパーはほとんど安売りしないなぁ」と思われたことはないだろうか。
香港は競争行為についてのコントロールという面では他の先進国に後れをとっている。この問題を解決するべく「競争条例」(日本でいうところの独占禁止法)が2012年6月14日に賛成31票、反対0票、棄権5票で可決された。
内需経済における大手企業の価格のつり上げに反発する市民の声をうけて「競争条例法案」が香港立法会に提出されて以降、38回の審議会議を経てようやく成立したものである。しかし当初の法案とくらべて対象となる企業が大きく制限されたことから「歯のない虎」と揶揄する声もある。
新しい政府が大きく譲歩してでも9月の立法会議員の選挙の前に当該条例を通過させて実績を残したかったということがうかがえる。
⑵条例の規制対象行為
「競争条例」で禁止される行為として、第一種行為と第二種行為が定められている。
まず第一種行為とは、他企業との競争を防ぐために企業間で行われる協議あるいは協調である。第一種行為が禁止されるのは、年間の売り上げが2億ドル以上の企業である。法案の段階では1億ドル以上となっていたが大きく引き上げられた。
次に第二種行為とは、大手企業がすでに持っているマーケットの優位性を利用して他企業との競争を防ぐ行為である。第二種行為が禁止されるのは、年間の売り上げが4000万ドル以上の企業である。第二種行為の対象企業についても法案の段階では1100万ドル以上となっていた。
⑶執行機関
競争条例に従って反競争行為についての調査や罰則などを執り行う機関が競争事務委員会である。当該委員会の主な役割として以下のようなものがある。
①違法行為の調査
②競争事務裁判所に対して起訴するかあるいは和解で解決するかの決定
③反競争行為に関するガイドラインの作成
なお、競争事務委員会に限らず、損害を受けた者は裁判を行うことができる。
⑷罰則
競争事務委員会は競争条例に違反した企業に対してさまざまな命令を発することができる。具体的には、罰金、損害賠償などを求めたり、取り調べや裁判の各段階で禁止令を出すことができる。罰金の最高上限は競争条例に違法した企業の過去3年間の売上高の10%とされた。なお、競争条例の違反行為は刑事責任にはあたらず、民事の責任に限られている。
⑸罰則免除行為
競争事務委員会による罰則が免除される行為がいくつかある。
①弊害よりも経済的効果のほうが大きく見込まれる協議行為(例えば、生産・販売の促進、技術の発展など)
②中小企業間の特定協議(ただし、合計の年間売上高が2億ドルを下回り、かつ当該協議が重大な反競争協議にあたらないものに限る)
③他の法律を順守するための反競争行為(例えば、民間航空会社の協議)
④香港経済全体に利益を与える行為
⑤社会のために特別な政策に基づく行為
⑹終わりに
競争条例が施行されれば香港経済に新たな風が吹くだろう。しかし、その効果が表れるまでにはまだ時間がかかりそうである。特に競争事務委員会と競争事務裁判所の設立には時間がかかる。また、競争条例は大原則を定めただけにすぎないためこれから具体的規則の制定が必要である。競争条例が香港経済にどのような影響を与えるかはこれからの政府の対応によるだろう。
※このコラムは一般的な情報提供のみが目的であり、このコラムから得られる情報に基づいた行動から引き起こされるいずれの事柄にも責任を負いかねます。
(このシリーズは月1回掲載します)
筆者紹介
ANDY CHENG
弁護士 アンディチェン法律事務所代表
米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めている。日本語堪能
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