香港にある資産の相続
- 2014年05月12日
- カテゴリ:コラム
香港にある資産の相続
相続は、法律分野の中でも最も難しいとされる分野の1つです。日本の弁護士は香港の相続手続き経験がないため、香港の裁判所の求める書式や内容に満たず、最初からやり直しとなったケースなどを時々見聞きします。特に、日本人の場合、国際相続手続きとなるためより複雑になります。
相続手続きの方法
相続手続きには、3つの方法があります。1つは、遺言有りの申請(Grant of Probate…遺言認証)、もう1つは、遺言なしの申請(Grant of Administration…遺産管理)。そして、⑴+⑵のコンビネーション、つまり遺言があったものの、
—遺言の中に誰が執行人(executor)であるのか記載されてない
—あるいは、遺言で指定された執行人が管理する権利を放棄した
—あるいは、該当執行人が遺言人より先に亡くなった
—執行人が生きているものの、彼/彼女は健康/精神的に執行人としての義務を果たすことが不可能な状態などの場合です。この場合は、遺産管理(遺言添付)という申請となります。執行人とは、遺言の指示を執行する人間であり、受益者ではありません。もちろん、実際のところ、遺言により同時に資産の受益者である可能性もあります。
申請者となる権利
「父が亡くなりました。息子である自分が、父の相続手続きをお願いいたします。」という相談がきたりします。
実は「息子」という一言だけでも、様々な学問があります。①婚姻関係による息子②私生児③養子。さらに、きちんとした法的手続きを行った養子か、あるいは、そうではない養子かどうか。
婚姻関係による息子は恐らく問題がありませんし、証明は簡単です。香港人の場合、出産証明書(birth certificate)、日本人の場合も戸籍謄本を出せば証明できるはずです。②と③の場合は、香港と日本の法制度は大きく違うために、その証明は非常に骨折れる作業です。その「息子」であることを証明するのに2〜3年間かかるという話はしばしばあります。
ようやく私が「息子」であることがきちんと証明できました。それでは申請者として申し込みを出せるでしょうか。もちろん、遺言があった場合、そして遺言の中ではっきりそうした権利が与えられた場合は、話しは簡単ですが、無遺言の場合は状況を探求しなければなりません。
管理者の順位
法律によると、無遺言の場合、下記の順位があります。
⑴故人の生きている配偶者
⑵故人の子供
⑶故人の父親/母親
⑷故人の兄弟/姉妹、あるいは、(もし兄弟姉妹が亡くなっていた場合)該当兄弟/姉妹の子供
上記の順位を見ると、「息子」として申請したい場合、必ず母親が管理人としての権利放棄が必要です。それでは、もし母親が管理人として権利放棄した場合、それだけで足りるでしょうか?
遺産額
遺産額の確認も必要です。法律によると、無遺言の場合、受益者として、下記の順位があります。
⑴配偶者が残された場合で、親、100%血の繋がった兄弟姉妹、兄弟姉妹の子供がない場合、配偶者へすべて配る。
⑵配偶者と子供が残された場合、遺産の所持品(例えば時計、宝石、服、テレビなど)は、すべて配偶者のものとし、残された50万香港ドルは、まず配偶者に配る。所持品と50万香港ドルを除いた遺産は、配偶者と子供に半々ずつ分ける。
⑶子供がいなかったが、⑴配偶者と⑵以下のいずれかの人(親、100%血縁関係のある兄弟姉妹、100%血縁関係のある兄弟姉妹の子供)が残された場合、遺産の所持品はすべて配偶者に配る。そして、残された100万香港ドルはまず配偶者に配る。所持品と100万香港ドルを除いた遺産は、一方を配偶者、他方を故人の親や兄弟姉妹などと 半々ずつ分ける。
⑷以下省絡
これを見ると、もし遺産額が50万香港ドル以下の場合、「子供」である身分だけでは、受益者としての権利さえありません。母親が必ず管理者と受益者として両方の権利放棄をしなければなりません。
来月も引き続き相続について説明します。
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筆者紹介
ANDY CHENG
弁護士 アンディチェン法律事務所代表
米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めている。日本語堪能
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