コラム:香港における民事訴訟②

香港における民事訴訟②

香港における民事訴訟②

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3 民事訴訟の法源
 
争いの内容により異なるが、例えば、知的財産権に関する争いの場合は、
(a)その分野に関する法律と法令:例えば、商標条例、特許条例、著作権条例、コモン・ローの判例 (b)知的財産権に関する判例が参照される。契約紛争時は、契約に関する法律判例が参照される。係争内容により参照される法律が異なる。

4 案件の流れ、進み方や管理方法
 
弁護士が禁止されていない裁判所の場合、非常に厳格なルールがあり、それらは下記が参照される。
(a) 法令(香港ではOrdinance、イギリスではAct)例えば、高等法院条例 (High Court Ordinance)、地方法院条例(District Court Ordinance)など
(b) 付属法令、特に高等法院規則(Rules of the High Court)、地方法院規則(Rules of the District Court) これが最重要である。
(c) 首席裁判官による業務手引き(Practice Directions)
(d) 判例
(e) 年間更新される白書(White Book 正式名:Hong Kong Civil Procedureいわゆる民事訴訟の“聖書”)

5 弁護士

香港では、弁護士は(a) ソリスター(solicitor 事務弁護士)と(b)バリスター(barrister法廷弁護士)の2種類ある。ソリスターとは、法廷での弁論以外の法律事務を取り扱い、クライアントから直接依頼を受けて法的アドバイスを行う者である。一方で、バリスターは上位裁判所である高等法院の原訟法院と上訴法院、そして終審法院における弁論権を独占する者である。バリスターは、法廷での弁論が必要となった時に、ソリスターからの依頼を受けて弁論を行う。クライアントは直接バリスターに依頼するのはもちろん、勝手に連絡することですら禁止されている。

6 督促状(demand letter)

香港の訟訴“習慣”として、いきなり裁判所に訴えを提起することはせず、まず相手方に法律事務所からの督促状を数回送ることが一般的である。
督促状を送る理由は、相手方に請求に応じてもらえるようこちらの本気を訴えるためだけでなく、裁判官へ裁判以外の解決方法を模索したことをアピールする意味もあり、これが極めて重要である。必要のない訴訟の提起や過度の訴訟社会化に歯止めをかけ、裁判所の限られた資源や時間をより必要があるところに集中させたいというのが近年の裁判所のスタンスである。こうした背景の下、和解・示談の試みや督促状の送付などのステップを踏まずに直ちに訴えを提起した場合、将来勝訴したとしても、相手方から回収できる弁護士費用が減額される可能性が高い。
 この督促状の送付により相手の反応も考慮した上、訴訟すべきか検討すべきであろう。

7 訴訟へ進む前に考慮すべきこと

7.1 訴訟費用
 日本と大きく異なり、香港で弁護士が成功報酬又は条件付き報酬を受け取ることは禁止されている。この数年間でも、何人もの香港弁護士が成功報酬を受け取ったとの理由で有罪となり、執行猶予の付かない実刑判決を受けた。
香港の訴訟費用は、世界基準で高いレベルである。通常であれば、裁判時には、ソリスターとバリスター両者を雇うことになる。費用は、ソリスターは、アワリーチャージ(時間給)、バリスターは、書類レビューのアドバイスは、アワリーチャージ、法廷出頭時には、固定の費用(経験により様々だが、1日当たり数万香港ドルから数十万香港ドル)を取る。係争金額が大きな複雑な案件では、高度な法律知識と地位があるシニアカウンセル(Senior Counsel  稙民地時代には、Queen’s Counselと言われた)が必要となり、その場合、更にシニアカウンセルの助手であるジュニアカウンセルを一緒に雇わないと依頼を引き受けてもらえない。
勝訴した場合、弁護士費用を相手方に請求できるが、おおよそ50-60パーセントの弁護士費用しか認められないことが多い。注意するべきは係争額にあまり関わらず、弁護士の作業量は大きく変わらず、よって弁護士費用が大きく変わるわけではない。例えば、100万香港ドルの売掛金が回収できず裁判を起こし、50万香港ドルの弁護士費用を使った場合、たとえ勝訴しても結局75(100-50+25)万香港ドルしか回収することができない。そのため係争額が少額である場合、費用対効果を考えると割高であり、リスクとリターンをよく考えることが重要である。
知的財産や建築関連は、仲裁でのストラクチャーが整っているため仲裁費用は安価に済むが、ビジネス関連のトラブルの場合の仲裁費用は、訴訟費用より高くなるのが一般的である。香港での訴訟費用は高いとはいえ、それでも仲裁より訴訟費用の方が安いのが一般的である。日系企業は契約書で仲裁規定を入れがちであるが、費用面を考えると安易に仲裁を選択するのは考えものである。

7.2 資産状況の調査
訴訟を起こす前に、相手の経済状況をきちんと調査するのは極めて重要である。回収できなかった場合、勝訴の判決は何の価値もない紙となる。回収を目的として訴えるのであれば、弁護士の責任として、事前に、清算や香港に資産価値のある財産の有無などの相手方の経済状況を調べないと業務過失を認定されるリスクがある。

7.3 時効
 民事訴訟は限定された期間=時効期間内に起こさなければならない。時効条例(Limitation Ordinance)により、その期間は以下のように規定されている。
— 契約(contract):契約違反日から6年間
— 不法行為(tort):不正行為日あるいは不正行為による損害が初めて発生した日から6年間
— 証書(deed):違反日から12年間
— 信託 (trust):詐欺による違反は時効なし
以上を考慮の上、民事訴訟を起こす場合、香港では、(a)弁護士に委任する (b) 国選弁護士に委任する(Legal Aid)…貧困などの条件あり (c) 当事者本人が行う の3つの方法がある。ただし、高等裁判所では、原告であれ、被告であれ、法人の場合は、必ず弁護士に委任する必要がある。

ANDY CHENG 鄭國有
弁護士 アンディチェン法律事務所代表
米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めていた。日本語堪能
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アンディチェン

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