コラム:香港ポスト『中国での商標侵害訴訟』

香港ポスト『中国での商標侵害訴訟』

香港ポスト『中国での商標侵害訴訟』

中小企業のための法務講座

中国での商標侵害訴訟

 前回2回にわたり、中国と香港の商標についての概要を執筆したが、実際の商標侵害訴訟を紹介する。

 2015年4月24日、広州市の中級人民法院(地裁に相当)が、アメリカの著名な運動靴メーカー「New Balance」(以下、「NB」という)の関連会社の新百倫貿易(中国)有限公司に対し、商標「新百倫」の使用中止と9800万人民元(約18億7000万円)の賠償を命じました。

 1996年に「百倫」という商標は登録され、原告は2004年に権利譲渡されて、2008年には「新百倫」の商標権も持ち、男性向け靴を生産し、ショッピングモールなどで販売している。原告は、被告であるNBの中国総代理店である新百倫貿易(中国)有限公司は、2008年に商標登録が認められた「新百倫」のブランド名を勝手に使い、多くの消費者に誤解を与えていると訴えていた。判決によると、NB側は、問題の商標は自社の親会社の看板商品の名称「New Balance」の中国語訳だから、使用権があると主張していたが、判決ではNB関連会社は『百倫』の商標が1996年に登録されていた事実を認識しており、しかも、2007年12月、商標局に対し原告による「新百倫」の商標登録申請を却下するよう求めていたため、商標登録状況を認識していたにも関わらず、「新百倫」を宣伝に使っていたとしている。

 また昨年5月12日、米NBAのスーパースター、マイケル・ジョーダンが、中国のスポーツ用品メーカーを相手取り、「ジョーダン」の中国語である「喬丹」を含む複数の商標を中国で登録していた喬丹体育有限公司という会社を訴えていた問題で、中国の北京高級人民法院(高裁に相当)裁判所は、一審の判決を支持し、この訴えを棄却した。この喬丹体育株式有限公司は1984年に福建省で設立され、中国では知名度があるスポーツメーカーである。判決では、「喬丹」が、ジョーダンを意味するとは限らず、しかも、米国で一般的な姓であり、ロゴはシルエットだけで顔の特徴が何もないため、それだけで消費者がジョーダン氏だと判断するのは「難しい」と述べている。

 また米のアップルは2002年10月18日に、中国の商標局へ「IPHONE」 の申請を行い、2013年11月21日にコンピューターやソフトウエアなどの9区分にようやく許可が下りた。新通天地科技(北京)有限公司は、2007年9月29日に「IPHONE」の商標を合皮、革、財布などの18区分に申請し、初歩審査後、アップルが商標侵害で訴えたが、アップル側の訴えを退ける判決を言い渡した。つまり新通天地科技が「IPHONE」の18区分の商標権を有し、財布や小型革製品などで「IPHONE」の商標を使用できる。

今後の対策

①出来るだけ早く商標出願すること 

 商標が有名かどうか、使用頻度や試用期間の長短に関わらず、先に商標を登録したものが、商標を使用する権利がある。上記の訴訟は日本企業ではなくすべてアメリカ企業であるが、世界的なブランド力があるにも関わらず認められませんでした。商標は、先に申請した者を優先する先願主義のため、いかに早く登録するかが鍵となるだろう。

②中国圏すべてで登録

 まず初めに、香港や台湾へ進出あるいは展開される企業が多いだろうが、これらの地域だけではなく、進出あるいは代理店経由で出荷する段階で、各々の国で商標登録をしておいておいた方が安全だろう。

③防御的な登録

 「IPHONE」のケースでわかる通り、検討している指定商標やサービスのみに登録するのではなく、関連する区分についても検討するべきだろう。

(このシリーズは月1回掲載します)

筆者紹介
アンディチェン

ANDY CHENG
弁護士 アンディチェン法律事務所代表
米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤 務の経験もありジェトロ相談員も務めていた。日本語堪能
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