中小企業のための法務講座『香港の仲裁(1)』
- 2018年05月25日
- カテゴリ:コラム
香港の仲裁(1)
香港の仲裁(1)
先日、日本からも弁護士が来港し、松田大使も出席された「香港律師會・大阪弁護士会ジョイントセミナー」が開催されました。大阪に国際的なビジネス紛争を解決する「国際商事仲裁」の専門施設が今月設置された事の宣伝がありました。この機会に再度、仲裁について考えてみましょう。
仲裁セミナーの様子
⒈紛争解決事項の選択
海外の企業間で契約を締結する際、その後、万が一、契約の相手側と揉めた場合の備えのために、紛争解決方法を決めておく事が一般的です。どの国の法令を適用とするか(準拠法)および裁判管轄地あるいは仲裁とするかどうかを事前に契約書で記載しておく必要があります。紛争解決条項を定める場合に、すべての要素を総合的に考慮する必要があります。
⒉仲裁とは
一般的には喧嘩の仲裁を想像するかもしれませんが、紛争当事者の合意に基づき、紛争についての判断を裁判所ではなく、第三者である仲裁人の判断により紛争解決を図る手続きのことです。仲裁の判決は、ほぼファイナルであり、拘束力があります。法律や手続きをはっきり誤るなどの特別な場合を除き、判決に不服でも裁判所による検討や取消はほぼありえません。また仲裁の判決は、日本含め国際的にも法的に認められて、実行することができます。
仲裁を選ぶメリットとしては、中立性、当事者が仲裁人を専任することができる、非公開であるため守秘が保たれること、一般的に上訴がないため比較的早期に解決することなどが考えられます。仲裁を選ぶデメリットは、費用が裁判よりも高くなること、一般的には仲裁判断の基準が不明確であること、上訴ができないことなどです。当事者間で仲裁合意をしておかないとそもそも仲裁機関が受け付けてくれません。紛争が発生してからこうした合意をすることは容易ではありませんので、もし紛争になった時には仲裁で解決したいと考えるのであれば、当事者間の契約書の紛争解決事項に予め仲裁合意事項を入れておくべきでしょう。
⒊アジアでの仲裁件数
JCAA(一般社団法人日本商事仲裁協会)の2016年度の仲裁申立件数は、16件でした。その一方、香港国際仲裁センター(HKIAC)の国際仲裁の新規受付件数は、214件、処理件数(仲裁および調停含む)は2016年に460件に達し、争議額は、194億香港ドルに及びました。2015年の国際新規受理件数は、シンガポール国際仲裁センター(SIAC)で228件、大韓商事仲裁院(KCAB)で74件,クアラルンプール地域仲裁センター(KLRCA)で18件と報告されています。
(このシリーズは月1回掲載します)
筆者紹介
ANDY CHENG
弁護士 アンディチェン法律事務所代表
米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めていた。日本語堪能
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