香港ポストコラム 『労務関係 』
- 2015年09月21日
- カテゴリ:コラム
労務関係
顧問先からは、日常の労務関係のトラブルの御相談をよく受けます。今回は、労務の基本をお伝えしたいと思います。
香港の雇用関係は、雇用契約書、就業規則、契約、会社の他のルールあるいは、内部規則に制約させています。契約精神は基本的に自由で、両者が自由に雇用条件を設定できます。しかし雇用関係の法律に違反した契約条文や規制は一切無効となります。極端な例をあげると、例え年中無休で休まずに働くことを従業員が契約で同意していたとしても、その同意は法律上無効になります。法律で与えられた最低限の基準や権利を下回ると法律違反となり、逆に、最低基準を上回った条件は全く問題ありません。
給与、従業員の解雇、休暇、祝日、年休、産休、病欠、退職金、年末ボーナス、組合参加の権利など、香港の主要な雇用関係の法律は雇用条例(香港法律第57章)で規定されています。
雇用から生じる特別な事情、例えば、最低賃金の確保、労災、職場で発生した差別については他の法律で補充されています。最低賃金については、最低賃金条例(香港法律第608章)、労災については、従業員賠償条例(香港法律第282章)、職場でのセクハラや特定な性別で不利な待遇については、性別差別条例(香港法律第480章)になります。
また悪天候の対応については、法律ではなく、労務署のガイドラインと現地の常識を理解しなければもめごとになりがちです。基本的には、いずれの法律も従業員を守る法律です。
クライアントからの最も多い質問は、「いつも遅刻ばかりする従業員がいますが、今すぐ首にできますか?」です。
上司として態度が悪かったり、悪質な行為にイライラし、すぐ解雇したくなる衝動があるでしょう。香港の法律では、即時解雇については下記のような状況であれば、可能です。
・会社の合法・合理的な指 示を悪意で拒否すると き
・不正行為を行ったとき
・詐欺・不誠実なことによ る有罪の時
・常に業務怠慢な時
はっきり言うと、上記は、法律上で具体的な定義がされておらず、非常に曖昧で幅が広い定義です。そのため、これだけを頼りにしても、全く意味がありません。もっとはっきり言うと、一時的な怒りでしばしば解雇することだけで不法解雇と差別条例違反とみなされ、訴えられる可能性もあります。
では具体的にどうすべきかというと、香港の常識と該当会社と従業員の特別な事情を合わせて考慮する必要があるでしょう。例えば、解雇する時は少なくとも以下を検討する必要があるでしょう。
・遅刻に関して、雇用契約 書と就業規則には何が 書かれているか?
・仕事の性質はオフィスの 一般事務か。それとも例 えば、時間厳守が必須な 客室業務員か?
・遅刻の頻度
・遅刻の程度
・他の従業員の出勤状況(時 間通りかどうか)
・該当従業員に警告したか。 そしてその警告の頻度
・他の従業員に同様な警告 をしたかどうか(差別に 当たることを懸念)
・該当従業員が例えば最近 1年間に妊娠や重病に かかったことがあるかどうか
日系企業の文化ややり方は、香港の従業員の常識や認識とは異なり不満が生まれがちです。さらに、フェイスブックやSNSで一歩対応を誤ると会社がやり玉に上がり会社のイメージダウンにつながる恐れもありますので慎重な対応が必要です。
(このシリーズは月1回掲載します)
筆者紹介
ANDY CHENG
弁護士 アンディチェン法律事務所代表
米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めていた。日本語堪能
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