コラム:中小企業のための法務講座『香港に地域統括会社を設立する理由』

中小企業のための法務講座『香港に地域統括会社を設立する理由』

中小企業のための法務講座『香港に地域統括会社を設立する理由』

中小企業のための法務講座

香港に地域統括会社を設立する理由
 2011年に行われた調査によれば、アジア地域の地域統括会社の設立場所として最も活用が目立った地域は香港、上海、そしてシンガポールの3カ所だった。

 地域統括会社の設立場所として重要な基準は、市場への近さ、法律・規制・税制・政治などの環境が整っていること、透明度の高い市場の存在などがあげられる。これらの基準において上海はまだトップクラスとは言えないが、香港はシンガポールとともに世界トップクラスの環境を整備している。

このほど開業したアンディチェン法律事務所

香港における外資系企業の設立状況 
 香港特区政府から発表された調査によれば、11年6月1日時点で、香港に設立された外資系の数は総計6948社ある。そのうち1340社は地域総括会社(香港を通じて統括拠点として香港以外の海外法人を管理する会社)、2412社は地域支社(多国籍企業の1つの海外法人として他の香港以外の海外法人と運営する)、残りの3196社は単純に香港支社として運営されるものである。

 現在、日本企業は香港における外資系企業の大部分を占めている。11年6月1日時点における香港に設立された日系企業の地域統括会社の数は222社で米国に次いで2位、地域支社の数は426社で同じく米国に次いで2位、香港支社の数は502社で中国に次いで2位である。

 横浜に本社を有する日産自動車株式会社は一部高級ブランド車の本社機能を4月に香港へ移すことを発表し、渋谷に本社を有する株式会社バルス(インテリア・雑貨専門店francfrancを運営)も、同じく4月に本社機能を香港へ移すことを発表している。日本国内での売り上げよりも国外での売り上げ、特にアジア市場でのシェア拡大を目指している両社は、急速に拡大するアジア市場により近いことや、関連機能の集中による効率化を重視した結果、地域統括拠点として香港を選んだ。

企業の地域統括戦略
 企業の地域統括拠点をどこに置くかは、業界の性質、被統括会社への接近性、産業ごとの優遇の有無などを考慮して決められる。

 伝統的には、金融関係の場合は香港、商社の場合はシンガポールに統括拠点を置くことが多い。製造業の場合、優遇措置がある国や地域で直接設置することが多い。

地域統括拠点としての香港の魅力 
⑴中国本土との緊密な関係
 香港は、中国が1978年から行う「経済開放政策」により、かつては中国の唯一の窓口であり、現在では世界の金融センター(新規IPOの総額—連続数年間世界一)であり、かつ中国本土にとっては一番の貿易パートナーである。本土へ進出する企業が地域統括拠点として香港を選ぶのは自然な流れだろう。

⑵安心の法務機能
 香港が中国に返還されて以来、香港基本法(香港のミニ憲法)により「一国二制度」のもと、従来の法律制度—英国の普通法(common law)—がそのまま使われている。そのため、香港では先進国なみの法律制度のもとで、コンプライアンス支援、トラブル解決、日常的な契約・事業買収を行うことができる。

⑶法人税の安さ
 香港では16・5%というアジア地域の中で一番低い法人税が実施されており、税制自体もシンプルである。また、国の情勢が安定しているため、この低税率や⑵で述べた優れた法機能も継続して享受することができる。それに対して、中国あるいは東南アジアなどの新興国の都市も企業誘致のための優遇措置を打ち出してはいるが、国の政治状況の影響が大きく、継続的かつ安定的に優遇措置を受けることは難しい状況にある。

⑷事業の再編成・譲渡
 中国本土や新興国において事業再編や売却を行うときには複雑な手続きと税金が発生するが、香港では事業の編成・売却は政府に申請する必要が一切ない。香港において会社譲渡をするときにかかる税金は、ほんの0・03%である。

おわりに
 世界中の企業のグローバル戦略の柱は、世界経済の中心を担っていくアジア市場への進出にあるといえる。立地および法制度ともに世界トップクラスの香港はその拠点として最適であるといえるだろう。
(このシリーズは月1回掲載します)

筆者紹介
アンディチェン

ANDY CHENG
弁護士 アンディチェン法律事務所代表
米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めている。日本語堪能
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