コラム:香港ポストコラム『外国での判決を香港において 執行したいとき』

香港ポストコラム『外国での判決を香港において 執行したいとき』

香港ポストコラム『外国での判決を香港において 執行したいとき』

中小企業のための法務講座

香港において、外国判決を執行する方法は二つあります。

一つは成文法(statute)である香港法律第319章:海外判決(相互執行)条例(以下:「319条例」)による判決執行です。該当海外判決を香港高等裁判所原訟廷(Court of First Instance of the Hong Kong High Court)で登記申請すれば、該当登記済み、つまり、香港裁判所に承認された海外判決は香港で香港判決と同じ効果があると見なされ、執行できます。該当15カ国で下された判決は香港で執行できる一方、香港裁判所での判決も該当15カ国で執行できます。

しかし、現在、15カ所の指定国/イギリス連邦地域である⑴オーストラリア ⑵オーストリア ⑶ベルギー⑷バミューダ⑸ブルネイ⑹フランス⑺ドイツ⑻インド⑼イタリア⑽イスラエル⑾マレーシア⑿オランダ⒀ニュージーランド ⒁シンガポール⒂スリランカのみが適応となります。

残念ながら、アメリカやイギリスと同じく、日本は319条の指定国ではないために、319条例は適応されません。

二つ目はコモンロー(common law, 判例法)で香港の裁判所で該当海外判決に対して訴訟を起こす(sue on common law)方法です。日本の場合は、以下の条件の元、日本での訴訟で勝訴した側(以下:判決債権者)が日本訴訟で負けた側(以下:判決負債者)に対して香港で訴えることができます。

⑴該当海外判決は最終であり、ひっくり返されないこと(The judgment is final and conclusive)
⑵該当海外判決は固定合計の金額(賠償金額)であること (The judgment is for a fixed sum of money)。

⑴の場合は、上訴の締切日を過ぎたなどで、判決負債者が日本で該当判決に対してもう上訴することができない状況などである。
⑵の場合は、以下の例で説明すれば理解しやすいでしょう。

例1:日本で、Aは合弁契約書違反でBを訴えた。日本の裁判所は以下の判決を下した。

①BがAに30日以内に、合弁会社の会計書類をAに開示すること。
②BがAに合弁会社の株を30日間以内、Aに譲渡すること。

上記の① — ②に関する判決(書類開示、株譲渡、取締役委任など)は固定合計の賠償金ではないために香港で執行できません。

例2:Aは日本で販売契約の売掛金についてBを訴えた。日本の裁判所は以下の判決を下した。

BがAに800万円を賠償すること。この判決は固定合計の賠償金であるために香港で執行できます。

日本の判決を香港で執行する手続き方法

⑴日本の判決を元に、判決債権者が香港の裁判所で起訴を起こす。(注1)
⑵起訴状を判決負債者に送達する。
⑶もし、判決負債者が28日以内に抗弁書を提出できなかった場合、あるいは抗弁書を提出したけれども、抗弁書の内容がいい加減で抗弁にならない時は、判決債権者が欠席判決あるいは簡易判決(以下:香港判決)を申請することができる。(注2)
⑷判決負債者がまだ支払わない場合、香港判決を執行する。判決負債者の銀行口座、不動産、資産に対して裁判所で差押手続きをする。

※注1…起訴状に提起する訴訟根拠は判決負債者が日本裁判所で下された判決に対して履行しない(負債)だけで十分である。もともと日本訴訟に至る争い(例えば、上記の例2のような販売契約の中でどちらが悪いなど)は香港の裁判所は一切関与しない。
※注2…注1の背景で、判決負債者の抗弁に足る根拠・理由は以下に限られる。

—日本の裁判所が該当判決を下す権利・権限がない
—該当判決は最終的ではなく、ひっくり返せる
—日本の裁判所に命じされた賠償額は固定合計の賠償額ではない
—判決債権者が不正・不公平・詐欺の方法で該当判決を日本の裁判所からもらった。

以上の抗弁理由は非常に難しいので、多くの判決負債者が抗弁書を出さず、或いは抗弁にならない抗弁書しか出せないので、判決債権者が欠席判決・簡易判決をもらうことが多い。

筆者紹介

アンディチェン
ANDY CHENG
弁護士 アンディチェン法律事務所代表
米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めていた。日本語堪能
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