香港ポストコラム『香港における労働法』
- 2017年09月18日
- カテゴリ:コラム
1香港における労働者の権利義務を規制する主な法律
香港における労働者の権利義務を規定する主な法律は、雇用条例(Employment Ordinance)である。この他に関連する法令として、性差別条例(Sex Discrimination Ordinance)、障害者差別条例(Disability Discrimination Ordinance)、門地差別条例(Family Status Discrimination Ordinance)および人種差別条例(Race Discrimination Ordinance)、労災補償条例(Employee Compensation Ordinance)、最低賃金条例(Minimum Wage Ordinance)、定年退職積立金条例(Mandatory Provident Schemes Fund Ordinance)、税務条例(Inland Revenue Ordinance)がある。日本人が香港で働く場合は、入境条例(Immigration Ordinance)も関連するだろう。
2雇用条例による規定
香港において労働法制の基本となる法令は「雇用条例」(香港法例第 57 章)であり、香港における雇用契約の内容、賃金、休暇、手当、出産・育児保障、年末手当、雇用契約の終了など、雇用に当たっての基本的な内容が定められている。
雇用条例は基本的にはすべての労働者に適応されるが、以下の者には適用されない。
a雇用主の家族および雇用主と同居する従業員
b香港以外の場所において就業契約に当たる者(外国人・出稼ぎ従業員等)
c商船条例に基づき就労しているあるいは香港以外の船籍を持つ船舶に乗船する者
d師弟条例に基づき登録されている師弟契約を結んでいる者(ただし、一部規定は適用)
なお、外国法と雇用条例その他の雇用関係法令が重複する場面については、裁判所はその適用の可否の判断を明確にしていないものの、限られた例外を除き、従業員の国籍にかかわらず香港内で働くおよび香港での雇用契約を結んだすべての労働者に適用されるものとしている。
3雇用契約
雇用契約とは、雇用主と労働者の間で締結される契約であり、口頭でも書面でも認められている。ただし、トラブルを避ける意味でもきちんとした雇用契約書を書面で結んでいた方が安全なのは言うまでもない。なお、その際は、従業員にも一部を副本として渡す必要がある。もし雇用主が雇用条件を変更する場合には、直ちに従業員に通知し、同意を得るべきこととされている。また就業規則の作成は、法律で義務付けられている訳ではないが、従業員とのトラブル、解雇時のトラブルや有給休暇の法律以上の溜まりを防ぐためにも就業規則を作り、従業員にも署名してもらっておくことが良いと言える。なお、日本の労働法と大きく異なる部分があるため、単に翻訳ではなく、香港法に基づき作成する必要がある。
雇用契約や就業規則で約定がない場合、継続的契約であるすべての雇用契約は、月々の更新からなる1カ月契約であるとみなされる。また、同一の雇用主により継続して4週間以上かつ毎週18時間以上勤務する労働者は、継続的契約に基づき労働したとみなされ、さらに、休息日、有給休暇、疾病手当、解雇保証金や長期服務金などの権益も付与される。
すべての雇用主は、従業員の過去12カ月の賃金および雇用期間を含む雇用に関する記録をオフィスや勤務地にて維持・保存しなければならない。これを怠る雇用主は、最高で1万香港ドルの罰金となる。
(このシリーズは月1回掲載します)
ANDY CHENG
弁護士 アンディチェン法律事務所代表
米系法律事務所から独立し開業。企業向けの法律相談・契約書作成を得意としている。香港大学法律学科卒業、慶應義塾大学へ留学後、在香港日本国総領事館勤務の経験もありジェトロ相談員も務めていた。日本語堪能
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